ある一時期、恐ろしいまでに渓流にのめりこんでいた時期があった。もうかれこれ二十年も前になるが、自他共に認める源流師になりたくて毎週袖沢を走り巡っていた。そのときは雨だろうが台風だろうがナンだろうか関係なく釣りまくっていた。あるとき、これではいけないなにか目標を「そうだ1日100匹、一週間連続いやそれは無理だ、せめて三日間にしよう。」三日で300匹。まあ、やれるところまでやってみよう。と、心に誓った。しかし、渓流つりはえさが大変。オニチョロは北ノ又の流れ込みで、ドバはリンタロウは・・・。やはりテンカラの方が勝負は早いのでは・・・。と釣る川に応じてえさを変えた。機動力が物を言うので小型のザックの下にすべての釣竿がすぐに出せるようにセッティング。メインは琥珀と匠。テンカラは東作で逆さ毛ばりの黒と茶色。えさ釣りは1号の通し、針は吉村渓流の9号。テンカラは自作の3.5mライン。当時は、シューズは秀山荘の茶色だった。しかし、魚籠は高価なテンダーを使用していた。ここで一番の問題点は釣った岩魚をどうするかだった。職業漁師は形をそろえるという、今回はキャッチアンドリリースだ。

 さて、本題の問題点は川である。三日分とすると、本流・支流・下流のこの三つしかない。ただ、本流は勝負が遅い。つれる時間帯が短い。とすると本支流の組み合わせを考えるしかない。ダム下下流はひとつと考えて、第二のトンネルまでをひとつ、奥★□をひとつと考えたほうが無難だ。★沢は奥に入り込むと1日かかるのでパス。◆沢も小屋場沢まで入りこむと、はずれると半日つぶしてしまう。それよりも、左岸と右岸で分けたほうが無難かもしれない。判断に迷いながら、とんじろでの遅いとこに付く。動き出しは午前二時。睡眠時間は約三時間か。しかし、一番むずかしいところは沢のダブルブッキングである。その夜も酒が入ると、どこにするという会話になる。なるべく人知れずに飲んでいても、酔ってくるとつい会話が弾む。いろいろと布石をおきながら会話に入る。マスターもなるべくダブらないように沢割りを会話の中に入れている。人知れず心に誓ったことなので情けはいらない。ただ、だまし討ちは良くない。酔っていても頭の中はぐるぐると考えが回る。1日目はすべて支流を攻めよう。支流を頭の中に20個ほど浮かべてから、単車で効率よく回れる方法を考えた。まず、一番遠くから攻めよう、頭がぐるぐる回る。

 第1日目、出発は午前2時。7月初めでも朝は寒い。一路、♀▼〇沢まで飛ばす。飛ばしても30分強はかかる。当時は沢抜けしているところも少なく、道もきちんと手入れされていた。今はわざと人を入れないように手入れはされていないようである。 ミノコクリ取入れで約3時になろうとしている。急いで靴の確認をしてからヘッドランプで金山沢まで飛ばす。知っている沢でも暗闇は怖い。◎☆▼まで小1時間かかってしまった。人は入っていない様子であるのでここより竿を出す。■○沢は細い沢である。手前で一匹。雪渓を越えて三匹。どうやら本流のほうがいるようだ。すぐに引き返す。取り入れ口6時を過ぎている。 ここで単車の二人組と出会う。宿の人だ。報告をしてからすぐに飛び出す。◇●▼沢魚止めまで駆け上がる。魚止めで八匹。そして駆け下る。8時。その下、□△▼沢。6匹。右岸、上大根・・・やばい釣れない。すぐに見切る。☆◆沢、■沢うむむむ・・いいぞ。13匹。そうだ袖沢取水上の大滝だ。やや、いないぞ。やばい・・・。秘密の沢だ。二つの滝を駆け上る。そこから竿を出す。おお・・・くもの巣。一投目から釣れる。結局魚止めまでで18匹。しかし、もう12時。それからは自分で秘密にしている沢やポイントを駆け巡る。合計で20匹。しかし、食事も取らず体はボロボロ。睡眠も限界。本流大石の上で仮眠。 もう夕方である。暗くなり始めた頃テンカラを取り出す。いつものポイントからは必ず岩魚が飛び出る。7時ぐらいがちょうどいい。ただ手に飛び込んでくるのが、何の魚かは解らないのが難点。ライズが終わり1日が終わった。もう真っ暗である。午後8時。岩魚の数は・・・。メモを見る。89匹。もう少し多い気がするが、それでも100には足りない。残念、自分のふがいなさに情けなくなる。沢読みの失敗。▼★滝上、雪渓の上流の方が数が出たのでは。源頭の方が数が・・・。そうだ、明日は自然体で行こう自然体でと反省。えさやガソリンの準備をしてからすぐに寝付く。

 二日目、出発はやはり午前2時。さらに単車には小型のゴムボートを結びつける。さあ、スタートだ。今日は下流部、田子倉だ。宿の沢対岸に着いたのは3時に近い。慌ててボートを膨らまし、飛び乗る。向こう岸までは10分だ。ボートの空気を抜き、空気入れを草むらに隠す。ぜんまい道を駆け上がる。と、5分ぐらいの道の横に黄色のテントを発見。あれれ・・ボートはないのに。気にせず足音を立てず通過する。流れにでるまで約20分。溯上止めの滝を直登。ここから飛ばしに飛ばして1時間弱で宿の沢通らずに出る。さあ、この上から釣りだ。時間は5時過ぎ。通らずより上はあまり人が入らない。渕には必ず岩魚が入っている。えさ釣りで素早く釣り上がること1時間。30匹は釣れただろう。大物はすべてリリース。魚止め途中で引き返す。飛ばしても1時間はかかるだろう。水の中を転がりながらボートまで。12時過ぎ。もうへとへと。そして対岸へ。様子も見ずに、滝ノ沢魚止めへ。やばい、雪渓がある。雪渓を2つ越えてから竿を出す。釣れる事は釣れるが、数が・・・。あいにくと魚止めは魚がいない。合計7匹。少ない。ため息。ここからはまたまた、秘密の沢巡り。3本の沢で15匹。だめだ。あっという間に日が暮れる。仕方がないので大鳥放水口上流より、いつものテンカラが始まる。木っ端岩魚はよく釣れる。また1日が終わってしまった。昨日と同じような成果。また、100はとどかない。しかし、なぜか単車に乗っているとき歌が出る。昨日より疲れが少ない。

 とんじろに帰宅すると、毎回奥さんに心配をかける。心配をかけない時間は午後7時まで。8時を過ぎると、これはいけない。顔は笑っていてもビシビシと鞭が入る。油断すると食事抜きにされてしまう。そういうときは黙ってこそこそと食事をする。行動を早くするのもよくない。陽気では最悪。いつでも反省の心が大切。できれば、季節の良いときは必ず「うど」のこれはというものを取ってくること。なにか仕事があったら率先して行うこと。そして、かならず帰宅時間は「何時になります。」と断ること。早く帰宅する分にはかまわない。以上、裏約束は必ず守ること。 しかし、2日も8時が続くとこれはいけない。言葉数が少ない。あと1日わがままを通そう。他人に心配をかけることは人間として最低であるが、あと1日でこれを最後にしたい。「マタギ」の真似事であるが、大変さ・苦労を体で覚えたい。少しでも山家の真似事でもと始めたこと。今、やめるわけにはいかない。子連れ狼の「迷不魔道」と言ったところか。そそくさと食事を終え、またそそくさとお風呂に入り、ガソリン・着替え・餌いれ・準備確認と終える。宿の釣り人の会話を聞かぬ振りして、しっかり聞いて。また、また頭の中は回転する。だめだ、残るところは御神楽源頭か白戸・・・・まさか。

 さすがに3日目になると疲れる。大学の合宿を思い出す。死の二週間合宿。つらかった。いやいや千日行の修験者とでは問題にならない。ファイト。三日目になると着るものも濡れてくる。おお、寒い。しかし、バイクで飛ばせばすぐに乾くだろう。 昨日から行き場所に困っている。大鳥沢では数は限られている。どうせ人が入っているから、やはり山越えか。▽●手前にバイクを止め、気合を入れる。暗いが1時間で越えるぞ。しかし、最初は順調だったが源頭近くで、雪渓崩れに出会うとこれは大変。横をすり抜け下をくぐりブロックを跳び越し。山頂ブッシュは登りやすい。降りは早い。結局、1時間40分かかってしまった。もう5時過ぎ。この沢はみみずより川虫が良い。30分のアルバイト。すぐに50匹のオニゲラが取れる。いざ上流へ、のっ越の滝上から竿を出す。滝壷は大物なので。平均すると岩魚はでかい。ここは一気に30ぐらいは釣れないと時間が足りない。6時から11時ノンストップで、結局58匹。そう、結果的には100は釣れる。途中で気が抜けてきて、魚がいれば誰でも100は釣れるナァと釣りが雑になる。12時に下って、のっこし来た滝上で食事と仮眠。こういうとき渓流で寂しさを感じる。もういいや、これでやめだ。もう帰ろう。雨雲も出てきたので合羽を着込み、走るように戻る。帰りは楽だ。源頭の雪渓も崩れ、歩きやすい。しかし、バイクに戻ったときはもう6時。今日はすこし早いやと思いながら南沢橋上でたそがれる。「まあ、なんだか解らないが頑張ったナァ」と。