【白戸川源流行】

 1996年8月13日、それは始まった。子育てをするにあたり、男の子は一度は地獄を見なければいけないというのが、私の持論だ。ただ、成長過程の適している時期を探すのは父親の責任である。息子が小学校6年生のときに、始めての白戸越えを行った。息子のリュックには自分のシェラフと予備の食料・飲み物・釣竿・着替えだけを入れた。重さにすると約3キロ弱。姿は一端の源流マンである。私のほうは軽量にして10キロ弱。安全のために簡単な用具、8mmザイル20m1本・ウェストベルト2本・エイトカン2つを入れる。2泊3日の用具である。出発はとんじろを朝3時30分。まだ、朝寒い時間である。ゲートからいつもの山道を駆けるようにして降りる。そのまま、ダム下の細い流れを渡り、トンネルを越える。南沢まで約一時間。ここからはアブの大群である。この日時を狙ったのもそれがあったからである。私はどういうわけか、アブに刺されても腫れることはない。息子はすぐ赤く腫れ上がる。ここからもう地獄が始まったようである。虫除けを全身に塗ってから出発。○●沢手前100m、名前があったと思うが「△っ▼◇沢」と良く呼ばれている。この藪に隠れた沢が白戸越えのルートである。

藪をこぎながら、沢を上る。しばらく歩くと岩魚の姿が増えてくる。大きいところで20から30cm。釣り人は本流で釣れない時だけこの沢に入る。だが、種沢なので大切にしたい。飛ばして45分ぐらいで二股につく。岩魚はここまで。小休止。ここを左(右岸)に行くと、尾根から袖沢に戻される。ここは右の沢を行く。水量は同じなので注意したい。ここから30分ぐらいで、なんでもない2〜3mの滝に着く。このなんでもない滝は、手場がなく結構楽しめる。ここからは3〜4mの滝が5つぐらい出でくる。二股から1時間で水が細くなり、濡場の沢となり、水量が極端に減る。沢後方には袖沢の白戸山が見えてくる。細い水量の沢を腕を酷使しながら上る。すると、いかにも尾根を越えそうな水無沢が2〜3本出でくるが、これを上ると乗越しに苦労する。乗越す沢は直径1〜2mのぶなの倒木がある場所からである。ここは下流に美しい景色が見える。ここまで飛ばして2時間。ゆっくりだと3時間はかかる。ここで大休止。ここから右(左岸)の水無・階段状の沢を上る。15分でブッシュ帯に入り込む。ここからは腕が勝負。ヒィヒィあえぐこと約20分。尾根に着く。小休憩。上で息子が来るのを待つ。あとはただ北を目指せばよい。落ちること10分で、ぶな倒木の場所に着く。数多く倒れているので、秋には、なめこが多く出る。ここから右に小尾根を巻くとまったく滝のない沢に出る。しかし、私はいつものようにそのまま直線的に落ちる。滝は3本出合い、すべてザイルを出して下降する。飛ばして約45分で白戸川メルガ股に到着。本流5mの滝上に出る。

 滝上より白戸本流を覗く。岩魚が見えるようであれば、人が入っていない。ここで、だいたいの予測が立つ。流れには岩魚は見えなかった。ただ、猛烈なアブである。全身に数千はいるだろう。たも網を振るとすぐに、握りこぶしぐらいは取れる。さて、白戸川の桃源郷は上流か、下流か。釣り人によって判断は違うが、私は下流だと思う。のっ越しから1時間ほど下ると左岸に良いテン場が現れる。上沢下流100mの地点である。上沢手前には以前、小屋があった。右岸3mの場所、テン場には適しないが、雨天時は良いと思う。そこから前後は桃源郷である。大型は40cm、通常は30cmが多い。テン場ではテンカラで楽しめる。ここでは誰でも名人。でも、ここではいろいろと書けないので、自分で探索してほしい。2〜3日は楽しめる。テントの中から息子は出ようとはしない。やはりアブの力はすごい。ここの場所を地図で確認すると、大熊越えの到着点である。ただ大熊越えは下りで滝ノ沢に向かうと、途中10mのCS滝は苦労するので注意したい。そして道のりも北沢乗り越しより5倍はかかるので、お勧めできない。ただ、袖沢を知り尽くしたい人はぜひ経験してほしい。

 イワナ釣りの話に戻そう。白戸川源流の流れは細く、水量は少ない。所々に淵を持ち、夏場は開きにイワナは飛び出る。えさを持ち込む必要はない。遅い時期まで「オニチョロ」がたもに入る。2〜3cmの大きいえさである。尾根越えの出合い、上流20mでは息子が45cm級を上げて帰ってきた。記念写真を撮ってすぐにリリースする。滝下から出したのこと。その後はどこからでもイワナは飛び出る。引きを楽しみながら下り釣り。テン場まで何匹釣ったかはわからない。刺身に二匹。塩焼きに四匹。恵みに感謝する。 次の一日はフライ・テンカラ・ルアーと重かった荷物を酷使する。あっという間に一日が過ぎ、帰宅となる。