2008.04.16
-移植放流のすすめ-(文’07.9Dr.Y)
袖沢周辺の滝上のイワナは、かつて山仕事の杣人によって移植放流された歴史があるのは知る人ぞ知る事実であり、先代「とんじろ」のご主人の放流のお陰で魚影のある沢もあると聞いている。かの有名な白戸川源流部や洗戸沢のイワナも、只見の大塚父子らマタギグループによって繰り返し滝上放流された魚の子孫であって、旧魚止めは田子倉湖のバックウォーターからたいした距離ではなかったといわれる。また、我々に関係深い御神楽沢のイワナも桧枝岐の杣人によって源流部からの放流されたという言い伝えがある。
このような種沢となりうる小沢の源頭からの移植放流は下流部や本流、ひいてはダムの魚影の回復に極めて有効と考えられるが、その際の注意点を列記したい。
まず稚魚はその水系の系統保全、遺伝子の混乱の防止という観点から、できるだけ同じ沢もしくは近隣の同水系の河川の天然魚が望ましく、在来魚と交雑する可能性の高い着殖魚の放流は避けなければならない。また放流魚とその稚魚の拡散は上流方向には行きにくく、下流に広がる傾向が強いため、滝上に放流する場合など、できるだけ最源流に放すべきである。尾数は一ヶ所に3ペア程度でよく、10尾の放流で魚影の豊かになった沢もあるそうなので、その効果は想像以上である。20尾位までならばビニールバケツに入れて水換えを繰り返せば、ブクなしでも十分である。
稚魚を釣るときはバーブレスフック(吉村渓流など)を使い、飲み込んだ魚は糸を切ればほとんど問題ないことが判明している。フライやテンカラでは浅がかりが多いので更に好適であろう。丁寧に針を外すには市販の針外しは不適当で、外科用ピンセット、止血鉗子、外科用持針器、フライ用フォーセップなどが適当である、いうまでもなく稚魚はサイズは大きくても小さくてもよいので、腕ききの渓流師なら20から30尾程度は難しい相談ではないだろう。
最近では釣り人が初期から多数入る小沢では魚類不在となった沢が各地にあり、特に堰堤間距離の短い沢ではペアを組む成魚がなく、近親交配が進んで再生産が低下する例が頻発しているという。袖沢でもそれに近いところがあり、改めて源頭放流の必要を感じる。実行にあたっては場所の選定と稚魚の確保と運搬に沢慣れた数人のパートナーがあれば心強い。
奥只見のイワナの将来も考えて「とんじろ」に通う釣り人諸兄には、是非賛同いただきたいと思う。
最後に源頭放流された魚は十分再生産が進むまでは武士の情けでそっとしておいていただきたいと心より願っている。